「市民の憲法研究会」メンバーによるリレー連載のコラムです。

「市民の憲法研究会」とは?
 法政大学大学院の五十嵐敬喜ゼミのゼミ生を中心とした憲法研究グループ。世代や職業の枠を越えたメンバーが集まり、官治・集権から自治・分権を目指した新しい憲法理論を生み出すべく活動を続けている。


 第9回「閣法、議員立法、そして市民立法(その2)」高野恵亮

 前回、筆者は「議員立法の活性化に向けて各議員は奮闘努力すべきである」と書いたわけだが、「各議員の奮闘努力」だけではどうにもならない制度的、慣行的な壁が議員立法には存在する。

 たとえば議員立法の提出に人数要件を課した国会法第56条の規定などがあげられるわけだが、これは「議員が議案を発議するには、衆議院においては議員二十人以上、参議院においては議員十人以上の賛成を要する。但し、予算を伴う法律案を発議するには、衆議院においては議員五十人以上、参議院においては議員二十人以上の賛成を要する。」というものであり、たとえ「唯一の立法機関」の構成員たる国会議員であっても一人では法律案を発議することはできないこととなっているのである。ちなみにこの制度を現在の国会の構成に当てはめると、たとえば衆議院の場合、通常の法律案を単独で発議することができるのは自民党、民主党、公明党であり(共産党は現在衆議院に20人所属しているが、この「賛成者」には「発議者」を含まないので、「発議者」を除いた場合単独で20名を確保することはできなくなる)、予算を伴う法律案を発議することができるのは自民党、民主党の2つだけとなる。

 本来、市民の様々なニーズを集約し、政治に反映させるのが国会の役割であるはずなのにこうした制度の存在によって市民の多様なニーズが国会にあがる以前の段階で排除されるということになってしまうのである。「市民の憲法」を考える際、こうした多様なニーズを排除する「フィルター」を生み出す余地をなくす方向で制度設計をしていくべきであると考える。

 また、さらにもう一歩進んで立法過程の中にも直接民主主義的要素を取り入れる発想も必要であろう。

 現在、地方自治体のレベルでは直接請求の制度があり(地方自治法第74条)、市民が直接条例の制定、改廃を請求できるものの、国においてはこうした制度は存在しておらず、また、議員立法についても先ほど述べたように発議するには一定の制約が存在する。前回触れた「民主的正統性」の観点から言えば、間接的に選ばれたに過ぎない内閣が提出する閣法に何の制約もないのに、市民から直接選出された議員の出す法案には制約があり、さらには市民が直接法律を制定、改廃するすべがないというのはまさしく不備というか本末転倒であるといわざるを得ない。直接民主主義といった場合、選挙や住民投票といった投票だけでは片手落ちである。やはり投票すべき中身=法案についてもお仕着せのものではなく、自身の手で作り上げてこそ真の直接民主主義といえるのではないだろうか。

 市民運動全国センター代表世話人である須田春海氏は『市民立法入門』(市民立法機構編、2001年)のなかで市民立法について「市民=直接立法」、「市民=議員立法」、「市民=政府立法」の3つの類型を示したが、現在、国の法律レベルにおいては「市民=直接立法」は存在しない。「市民の憲法」を考える際、やはり市民の手で直接法案を立案できる仕組みを組み込むように制度設計すべきであろう。(ちなみにイタリア憲法では「国民は、少なくとも五万人の選挙権者による条文に起草された草案の提出により、法律を発案することができる。」(第71条)とされており、一定の人数を集めれば法案を出すことができることになっている。)



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