〔聞き手〕天野礼子(公共事業チェックを求めるNGOの会代表)

 Part4では、会場にお越しいただいたみなさまからアンケートでいただいた質問を、天野氏が各候補者に聞きました。50件ほどの質問をいただきましたが、時間の許す範囲での質疑応答となっています。ご了承ください。

衆議院解散の見通しと民主党の戦略

天野
 衆議院解散後の見通しを聞かせてほしい。代表としてどのように戦うのか。選挙演説の第一声の演説を2分でしてほしい。

鳩山 (小泉首相の)訪朝後に解散というものを視野に置く必要が出てきた。1年以内に解散が行われる可能性が極めて高い。私たちも解散を求めて行動しなければならないから、いつでも臨戦態勢を整えておく。解散になったとき、タイミングにもよるが、一つは政官業の癒着を断つための政権交代を実現させなくてはならない。政官業の癒着というものがこの国をめちゃくちゃにしてしまったということを、国民のみなさんにも強い意識をもってもらって、いまこそ官僚依存ではない自立した国民をつくり上げて、そのことによって尊厳を回復させる日本をつくり上げていくことが極めて重要だ。「そのタイミングが来た。みなさんご協力を願いたい」というのが、最初のテーマだと考えている。それを実現させていくためにも、政権交代を実現させてまず最初に行わなければならないのは、地域主権国家というものにして国と地方のあり方をひっくり返すことだ。その大きな作業を行うことに、国民のみなさんにも全員参加してもらいたい。そんなことを述べることになるだろう。

横路 もちろん各選挙区に民主党の公認候補をできるだけたくさん立てると同時に、他の野党、自由党や社会民主党とも選挙協力をできるところはして、とにかく自民党を過半数割れに追い込むというのが、来るべき総選挙での基本的な戦略だ。そして国民のみなさんに訴えたいのは、いまのような日本の状況、例えばかつてこんなに犯罪が多かった時代があったろうか、かつてこんなに自殺者が多い時があったろうか、かつてこんなにホームレスの多い時代があったろうか。やはり何と言っても、失業、倒産を防ぐために景気の回復と構造改革、2つのことを目標にしっかり進めていかなければならない。そしてそれを進めていくためのベースとして訴えたいのは、“安心のある社会”と“希望の持てる社会”だ。今日は(会場に)若い人が多いが、学校を卒業して就職のできない人は200万人。今年1年間だけで高校生、大学生、短大生で20万を超えている。そして夫婦共稼ぎをしていても本当に子どもを産んで育てることができるか。若い人にだって、仕事の面でもいろんな面でも希望がなくなってしまっている。まず中央集権的ないまの国から、市民が主役の政治に変えていく。そして同時にしっかりと、男女共同参画の社会を作っていく。そのためのネックになっていることを解消するということが、まず第一に日本の社会の中でやらなければいけないことではないか。よく子育てと介護と言うが、その社会的基盤をしっかり作って、20代の若者も希望を持てるように、そしてお年寄りも安心のできるような日本の社会を作る。そのための総選挙だということを訴えたい。

野田 解散の時期は、前回の衆議院の選挙から2年を超えているから、いつあってもおかしくない。いつあってもおかしくない解散総選挙で訴えたいことは、小泉さんは自民党をぶっ壊すと言ったけど、壊すことができない。それができるのは、戦う集団となった強い民主党が、思いっきり体当たりをして自民党を壊すことだ。そしてそのあかつきに、政権交代を今回こそさせてほしいと強く訴えたい。なぜならば、政権交代は最大の政治改革だからだ。190日続いたこの間の国会でも、鈴木宗男さんの問題や加藤紘一さんの問題が出た。またもや、またもや出てくる。そういうものを繰り返させないためにも、斡旋利得処罰法とか政治倫理なども大事なテーマであるが、1日にして政官業の癒着構造を断ち切って白紙に戻すのは政権交代であるということを強く述べたい。政権交代のもう一つの意味は、カネの集め方と使い方を変えることであると強く主張して、霞ヶ関の解体を訴えたい。多くのみなさんが、それこそザルで水を救うような努力をして一生懸命税金を納め、そしてコツコツと郵貯、簡保、年金、積立金を貯め込んでいる。それらの使い道が極めて無責任なのがいまの政府の構造だ。ザルで水を救うような努力をしているみなさんのためではなくて、一般会計だけではなくて特別会計を見ても、バケツの水をザルに流し込むように特殊法人等がガンガンやっている。そのカネの流れを変えることが政権交代の意義であると強く主張したい。

 まず解散の時期は、常識に考えれば来年の通常国会が終わったあたりだと思うが、この10月は目が離せない。朝鮮訪朝の結果多少支持率でも上がれば、思い切ってやってくる可能性も十分に考えて対応しなければならない。そこで私がもし解散になったときの第一声を言うとすれば、まずなぜいまのような日本になってしまったのかということだ。一言で言えば、従来は必要な公共事業の中でピンハネしていたのが、いまはピンハネのために不必要な、有明海を汚すような2400億円の諫早湾に代表される公共事業をやっている。それをやっているのは、政治家とまさにそれを取り巻く官僚だ。自分のところの利権だけは絶対に外せない、BSEや何か失敗があったら「さあ、これで予算が増える」と思っている無責任な官僚が、その日本の権力構造を作っている。まさに官僚主導の族議員政治を根本から変える。これには政権交代だけでは不十分だ。細川内閣は政権交代をしたが、残念ながらそれを支える政党が弱かった。ここに並ぶみなさんや会場にいる我々の仲間は、数だけではなく、少なくとも鈴木宗男のお友達のような人はほとんどいない。いまの民主党なら、その仲間とともに100人で内閣を作る。大臣が1人に副大臣に政務官、そういう中で100人が内閣を作って、自分たちが政策を作り、法案を作り、そして国会に出して実行していく。官僚のみなさんには専門家として協力はしてもらうが、官僚が事務次官会議で決めたものを全部追認するような閣議はやらない。事務次官会議は即廃止する。こういった点を訴えていきたい。


景気対策をどうするか

天野
 株価が落ちる経済の失速が心配だ。現状は構造改革、財政再建より、まずは経済の活性化が緊急に必要ではないか。今の不況に対して対策は考えなくていいのか。考えるとしたらその案は何か。

 小泉内閣1年5ヶ月で東証1部の株価は130兆円ほど減った。昨日は(平均株価が)9000円を割った。このときに常に出る問題は、いわゆる財政規律かそれとも景気出動、財政の出動か。この2元論の議論を10何年間もやってきた。さきがけ時代、財政規律を厳しくすれば無駄な公共事業がなくなって有用なものに使うのではないかと思ったが、残念ながら霞ヶ関は無駄なものをそのまま続けた。だから、財政規律か景気出動かという考え方そのものを根本から改めなければいけない。本当に国民にとってプラスになるものをやるのかやらないのか、中身の方から行かない限り、出動かと言えば亀井さんが喜び規制かと言えば小泉さんが喜んだって、どっちだってうまくいかないのは確かだ。そういう意味では中身を見る。そういう点で、毎年の予算で10兆円、あるいはいろいろな他の特別会計でもう10兆円、合わせて20兆円は無駄に使われていると見ている。それを例えばバイオの研究、ITのインフラ整備、子育て支援、老人施設の充実、さらには自然回復型の公共事業など、基本的にはこういうことに持っていく。それを、先ほどから述べている予算の作り方から内閣の作り方を変えていくことで持っていく。必ず役に立つ、あるいは国民の安心につながる予算を組んでいけば、何年か後にはそれがプラスに跳ね返っていくから、そういう形で景気回復していく。もう一つ、その前提として外科的手術が必要なのが金融だ。一言で言えば、すべての不良債権を公開競争入札で売ってしまい、その価格収益還元に見合う価格を一旦つけないことには、永久にこの問題は解決しない。そこは外科的にやるし、それ以外の財政についてはいまのような考え方で、考え方を根本から変えて進めていくことが、日本経済や株価を建て直す上で必要なことだ。

野田 株価の低迷は、まさにマーケットがこれまで日本の改革意欲と能力を見てきたけれども、もうこれはダメだと思い始めたことが今回の顕著な動きになっている。もちろん世界同時傾向ではあるが、日本の場合はことさらそのことが言えるのではないか。例えばペイオフの解禁の問題でも迷走していて、どういう意志があるのか分からない日本だとか、不良債権の処理はずっと言ってきたけど全然実効性のなかった日本とか、財政構造の改革を言っているけどまったくその気がないのではないかという日本。こういうところを変えていかなければいけない。その辺に対する信任がないと株に関しては回復できない。不良債権の処理については、抜本的な処理を早急にしなければならないと先に述べた。加えてペイオフの解禁も、一部たじろぐ議論もある。進むも地獄だし、引くのも地獄だ。でも、今回は引くことのマイナスの方が大きいのではないか、もし引くことがあるならば、さらに株価が下がることになりかねない。当面の姿勢としては改革意欲を外に示すかどうか、意志力があるかどうかということが問われているのではないか。臨時国会が開かれると、おそらく補正予算の議論になる。今年度の年収見通しが47兆円と言われているが、おそらくそこまで税収は上がらず、40兆円くらいだろうと言われている。そのようなときに、少なくとも財政出動を伴うような景気対策はあり得ない。だから、選択肢はほとんどない。先に述べたような政府事業の民営化であるとか、規制改革であるとか、財政出動を伴わない景気対策、経済対策、あらゆることを講じていくしかない。

横路 まず、大きい公共事業は凍結をして見直しに時間をかけるべきだ。しかし、小さな身の回りの、例えば駅などを中心としたバリアフリーを進めるなど、国民の生活にとって必要な小さな公共事業はやるべきだ。いま世の中みんな安心感がない。企業経営している人も働いている人も家庭の中にいる人も、みんな不安感を持っている。不安感を解消して安心ができるというような政策の遂行がどうしても必要になってくる。どこに不安感があるかというと、例えば子育てや病気になったとき、老後のことなどに不安がある。先に述べたように、ヨーロッパに比べて日本の社会保障給付が対GDP比で低い。特に低いのは児童手当てと失業給付だ。こういうところを充実することが、サービス経済が主流のいまの日本では効果がある。教育に投資をして人の労働生産性を上げるということも大切だ。だから、公共事業に投資した分を教育や社会保証に転換していくことが大切だ。減税については、所得税の減税をやっても、もともと税金を納めていない人が多いから効果はあまりない。企業の方も、投資減税と研究開発投資は将来的なことを考えて必要だと思うが、法人税率を下げても借金を返すだけになる。あと、規制緩和をしても景気はよくなるのだろうか。例えば、タクシーや運送業界は規制緩和をやったが、それで日本の景気はよくなったか。タクシーはたくさん抱えているけど運転手さんがいなくて、休んでいる車が多いというような実情になっている。必要な緩和はしなければいけない部分もあるが、それだけで景気がよくなるというようには思わない。

鳩山 小泉内閣の最大の失点は経済政策に尽きる。株価が大変低迷しているが、これは慢性化している。小泉さんは党首討論で3月危機はないとうそぶいたがとんでもない。あのときは空売り規制を行って、すなわち規制を行うことによってようやく株価を保っていただけであって、現実は極めてひどい状況だった。この空売り規制が効かなくなっただけに、今回はどんどん下がってきたという状況だ。これはまさに経済有事であるという危機意識のなさが、小泉内閣の最大の失政と呼ぶべきだ。それに対して3つほど簡単に述べたい。一つは不良債権の処理を急ぐこと。このことは、経営者そして政治家の責任が問われるだけに、未だにやろうとしていないが、一時国有化など、すなわち公的資金の投入も視野に入れて、大胆な改革を一挙に行うことが何よりも重要だ。それから、現実の経済を見ると、やはり家計の消費を増やすことが重要だ。一つだけ例を述べれば、かねてから主張している住宅ローンなどのローン利子に対する減税を行うことで、消費を刺激することが何よりも効果がある。もう一つ述べれば、この国を守り、礎を築いてきたのは中小企業の方々だ。その方々が経営がおかしくなると、続々と自殺しなければならない状況がある。貸し剥しを解消させること、個人保証を撤廃するために少なくとも第三者保証を禁止させなければならない。この3点だけ、いまは挙げておきたい。


エネルギー政策をどうするか

天野
 エネルギー政策を聞きたい。ヨハネスブルグ環境サミットで、先進国ではアメリカと日本だけが、自然再生エネルギーを多用していこうというヨーロッパ諸国に反対している。ヨーロッパではチェルノブイリの事故以来、すべての国がEUを含めて原子力を見直すという方向に進んでいる。原子力政策について推進、現状維持、縮小、廃止のいずれを選ぶのか。

鳩山 原子力政策に関しては、ウラン、プルトニウムといった資源は当然将来に枯渇時期が来るということを含めて述べれば、縮小的に進めていく。しかし現実問題として、例えばモンゴルは10年間で夏の平均気温が10度上がっている。冬は10年間で10度下がっている。このようなむちゃくちゃな気候変動によって、数十万から数百万の羊が死んでいるのがモンゴルの実態だ。このようなことを考えたときに、炭酸ガスの排出については、基本的にアメリカに追随しているような状況が見えて非常に残念だ。日本としては、真っ先に自然再生エネルギーに大きく軸足を変化をさせるために努力をすべきだ。その意味でとらえて、原子力というものも、炭酸ガスの消費を考えればむしろプラスの部分もあるだけに、しばらくの間は過渡的なエネルギーとして認めなければならない。今回の東電の大変な失態、傷を隠蔽して虚偽の報告をするようなことがあるだけに、これは労使そろって根本的にこういったことが二度と起こらないような対策を講じないと、原子力政策にはますます暗雲が漂ってくるだけだ。しばらくは過渡的なエネルギーとして、原子力は徐々に減少させていくにしても必要なエネルギーと認めている。

横路 将来的な目標としては脱原発社会だ。EUが現在自然エネルギーが6%なのを2010年までに12%以上にするということで、各国とも風力、バイオマス、太陽などいろんな自然エネルギーについて努力をしている。そうした中で日本だけが、依然として原子力に依存する計画を持って進めている。本当に残念だ。電力の自由化の中で電力の分割も議論されているが、燃料電池なども開発されていて、いままでのような大規模立地のエネルギーから地域のローカル的なエネルギーにウエイトが変わっていくので、そういう努力をしなければ地球温暖化に対応することにならない。原発エネルギーは解体の費用だけで30兆円もかかるということで、コストも従来言われていたのと違って非常に高い。高レベル核廃棄物の処分はこれから何年先までかかるか分からない話で、100年とか200年先、それくらい時間もコストもかかる。やはり脱原発社会を目標にして、自然エネルギーをどうやって増やしていくか、新しいエネルギー開発をどうするのか、ということに力を注いでいくべきだ。

野田 ある人から聞いたのだが、北朝鮮でもマラリアが発生しているという話だ。厚生省関係の専門の方の話だから間違いない。マラリアと言うともっと暖かい地域かと思ったが、それだけ地球温暖化が進んでいて、北朝鮮でも発生している。地球温暖化の問題を考えると、化石燃料に頼ったというやり方は大幅に改めて、自然再生エネルギーを大いに開発して大々的に普及をしていくと言うのが、これからの基本方針であることは間違いない。問題はそのための予算措置等をちゃんと政治が行うかどうかで、その辺の気構えに及び腰の姿勢があるならばそれはいけない。その自然再生エネルギーへの転換過程において、それがあまり進んでいないのであれば、原発は現状維持型にならざるを得ない。自然再生エネルギーの開発、普及がもっとできるようになったときに、だんだん縮小していくことになる。

 私の友人のマンガ家がよく言っている。砂漠地帯に大量のユーカリを植える。そうすると、太陽熱でユーカリが育って、それからアルコールを取り出す。アルコールから水素を取り出して水素エネルギーとして使う。確かにこれだと、地球上のCO2を取り込んでそれをまた水素エネルギーに変えて放出して、まさに自然再生エネルギーだ。そういう方向にもっと予算を含めて力を入れるべきだと考えている。かなり前に調べたときは、日本におけるそういうエネルギーの量は、全体の使用量のまだ1%にも満たないという数字が出ていた。ドイツでは風力などで10%くらい来ている。日本は科学技術庁でかつて「風トピア計画」というものをやったが、結局は効率があわないということで事業化を放棄した経緯がある。ヨーロッパに比べて自然再生エネルギーが非常に遅れている。その中で現状の電力、エネルギーをどうするか。社会構造をできるだけ変えて、なるべくエネルギー多消費型ではない社会を作るべきだと基本的には思っているが、まさに将来的に脱原発を考えながら現状維持、ないしは自然再生エネルギーの量によってだんだんと縮小していくという形をとらざるを得ない。今回の原発の問題は、日本のエネルギー問題にとって極めて大きなマイナスで、傷を生んでいるということも触れておきたい。

(補足:天野)科学エネルギー庁の報告では、日本で国民に使われている原発の総電力の量と、潜在的に考えられる自然再生エネルギーの量とでは、わずかだが後者のほうが多い。つまり、日本は脱原発をやっていけるという試算だ。


長野県知事選の反省と自然破壊の公共事業について

天野 長野知事選で田中さんが支持されて、脱ダムへドミノ倒しで進むと思うが、政党の存在感が全くなかった。政権を取ろうとする政党として反省をしてほしい。国会で自然再生法案を与党が出した。これについてはいくつかの新聞が、これまでの公共事業による自然破壊を反省しない上での法案の成立は、単なる新たな公共事業作りではないかと批判している。まず運用されて自然破壊が進んだ長良川河口堰のゲート、諫早湾の水門を開け、土地や漁業権を強制収用してまで強行されようとしている川辺川ダムの計画をまず中止すべきだ。その前に自然再生法案の議論はないのではないかと、NGOのみなさんは言っているがどう思うか。いま挙げた長良川、諫早湾、川辺川については、総理になった場合にはどう対応するか。

 明後日、川辺川の現場に行く。場合によっては強制収用という事態が今年にも予定されているが、これを止めようと頑張っているみなさんへの激励を含めて、現場を見てきたい。川辺川ダムの中止、諫早湾の水門、最終的には潮受け堤防を壊さないといけないが、その工事の中止、長良川の水門の開門は民主党の公約であり、政権が取れれば3ヶ月もあれば諫早の水門は開けられる。工事についてはすぐ中止できる。自然再生法の問題は、天野さんの活躍ぶりが効果を挙げたのか、自民党の中でも自然再生型の公共事業に対して大変関心が高まっている。気をつけないと、そういう形容詞だけつければ、従来型の公共事業でもいいとして、科学技術庁も環境対策だと言って、ほとんどの予算を原子力開発に上げていた。なぜ環境対策なのかと言うと、原子力がCO2対策になるからだと。役所は必ずこういうやり方をするので、それに乗せられない形の法律を作らなければならない。そういう点で、この自然再生法はかなり問題があると思っているので、最大限の注意を払っていきたい。

野田 川辺川ダムの中止の問題あるいは長良川河口堰、諫早湾の水門の問題は、基本的に菅さんと同じ立場を取りたい。これは撤退すべきだ。これ(=撤退することについて)は環境分野だけではなく、いま問題になっている住基ネットもギアをバックに入れて戻すべきだ。小泉さんのやろうとしている改革の中で、先に述べたように、構造改革の部分では民主党はもっとアクセルを踏むべきだ。一方で、ちゃんとブレーキを踏むということは、こうした環境破壊に関わる問題であるとか、個人のプライバシーを侵害するような、自由社会にとって脅威になるようなことだ。こういうことについては、体を張っても多くの市民や改革派首長のみなさんと連携をして国民運動をしながら、ブレーキをかけていくのが民主党の役割だ。自然再生法については、私たちの同志である鮫島さんが対案を作り、画期的な内容だ。自民党案は似て非なるものであって、賛同することは決してない。

横路 先日熊本に行ったら、土地収用の収用委員会をやっていて、漁業権も収用法の対象になるということを始めて聞いてびっくりした。この3つの点については、みなさんとまったく同じ意見だ。公共事業のやり方で水害などの想定をするときに、初め50年に1回でスタートしたのが、だんだん100年に1回、200年に1回の災害対応になり、とにかくダムを造るための理屈というのはどんどん広げられている。しかも山の保水力がなくなるから、雨が降ると低いところを見つけて流れていく。だから何が基本的な解決かというと、山の保水力をどうするかということだ。それがなければいくらいろんなものを作っても、結局は水は流れていくから、どこかで逆流していままで考えもしなかったようなところへ水があふれ出る。このごろ河口近くの都市の水害が増えてきているのは、そういうところに原因がある。ダムは、公共事業のシェア配分の中で大体この部分ということで、各地方に直轄だ、補助だと割り振りをしながら進めてきた。そこはまさにいま大きく問われている。長野県の田中知事が圧勝したが、県民の判断と議会を通じて間接民主主義と間接民主主義がぶつかって、直接民主主義が勝利を収めたということだ。知事選挙の結果を見て、これがやはりいまの国民の声だとしっかり受け止めていかなければならない。

鳩山 先ほども述べたが、長野の知事選で民主党が存在感を示せなかったのは率直に反省をする。繰り返しになるが、分権の社会ではあれ、分権化されていくはずの地方議会の方が党本部の政策よりも既得権益化している可能性がある。このようなときには、かなり大上段から大ナタを振るうようなことをやらなければいけない。それを反省材料として進めて生きたい。また、長良川河口堰、諫早、さらに川辺川については3人とまったく同じだ。政権を取ったらとあったが、政権を取らなくても、野党の状況であったとしても、例えば川辺川のダムを阻止するためのあらゆる手立てを行動で示していくことが必要だ。菅さんが行くということなので、期待を述べながらぜひ体を張って止めてきてほしい。体を張らないと進められてしまう。反省の上でという話だが、過去の失政に対する反省に基づいて自然再生事業を行わなければならないのは言うまでもない。そこが欠落している法案と、しっかり盛り込む法案とでは、雲泥の差がある。過去というものをきちっと総括しない限り、またしても公共事業漬けという国に戻る可能性がある。いくら自然再生という思いがあっても、過去に対する総括はきちっと行って責任を取ってもらわないと困る。


夫婦別姓と子育て支援について

天野 男女共生社会は民主党の公約だと思うが、夫婦別姓法案を促進するか。子育て支援策はあるか。

鳩山 選択制夫婦別姓であるだけに、そのことを希望する男性、女性に関しては当然のことながら夫婦別姓に進むべきだ。したがって推進だ。民主党の中で様々な異なる考え方を持つ人がいるが、あくまでも選択的なので、そのようなことで家族が崩壊するような状況になりえないのは自明だ。子育て支援に関すると、難しい話ではあるが、保育所その他ということでは、必ずしもすぐに少子高齢化に歯止めをかけることが出来ない。一番重要なことは、人間としての尊厳を特に男性がしっかりと身につけることだ。それによって少子高齢化社会に歯止めを打つことができるのではないか。様々な政府の支援策は、なかなか本格的に出生率を上げることにはならないのではないか。政府の対策には悲観的に考えている。

横路 夫婦別姓選択制は民主党の公約でもあるので、早く実現できるように努力したい。ある人から、この法律が通るできるまで結婚を待っているから早く通してほしいという電話もあった。子育て支援は本当に大切で、女性が仕事をしながら子どもを育てるということをどう両立してさせていくかが、日本の社会にとって最大の問題だ。保育所の機能をどう充実するかとか、育児休業法をもっと充実して育児のために時間を割ける避けるようにどのようしたらいいのかなど、課題はたくさんある。子育てを知らないお母さんたちも増えているから、そういうお母さんたちの教育をどうするのか、そういう場所として幼稚園をどう活用するかなど、様々なアイディアが出されているが、やれることはすべて政策的に、重点的にやらなければいけない課題ではないか。そういう意味では、男女共同参画社会は言葉だけに終わらせないで、具体的な政策としてやるべきことは早く実行しなければならない。

野田 結論から言うと、選択的夫婦別姓は賛成だ。自分は民主党では右寄りだと見られていて、よく反対だろうと言われているがそれは違う。夫婦同姓は望ましいと思うし、慣習として定着していると思うけれども、そのことで不都合を感じたり苦労をしている人がたくさんいるのならば、当然選択制は導入すべきだ。子育て支援については、育児休業、保育園の拡充、子育ての相談体制の問題など、ありとあらゆる方策が必要だ。いまの政府の体制だと、福田内閣官房長官が男女共同参画社会の担当で、内閣府の中に一担当室みたいなものがあるが、やはり女性庁ぐらいの、しっかりとした女性政策を作るような構図を、政府の中に位置づけるべきではないか。

 選択的夫婦別姓は民主党ができたときに決めたことだし、私個人も賛成だ。まさに選択的だから、いまさら私と家内とで名前を変えることは考えていないが、選択的に仕事の関係や個人の考え方で別姓を選ぶことは、当然認められるべきだ。子育て支援については、ちょうど私が厚生大臣のときに1.46という出生率で、人口問題の研究所の所長に話を聞いた。日本は結婚した女性の出生率は2.1で、結婚が遅れているだけだから、そのうち溜まっている人が結婚したら出生率は戻りますよなんてその所長は言っていたが、(そのような発言でその所長の)クビが飛んだかどうかは聞いていない。やはり女性が社会参加をする上で、結婚はしても子どもは産まない、産んでも一人が精一杯という状況がある。そういう意味では保育所、育児休業などいろんな面がある。保育所の話も、ヨーロッパのように職場に置いたらどうかというが、あの満員電車ではとても子どもを連れて職場にはいけない。そういう意味では街のあり方から、社会のあり方全体が、子育てというものにもっと調和できるというようなところまで掘り下げて考えていく必要がある。


会場や全国の人たちへ

天野 最後に、会場のみなさん、全国のみなさんこれは言いたいということがあれば述べてほしい。

 一つだけ述べたい。よく鈴木宗男さんのようなあんな政治家はけしからん、いまの政治家はどうしようもないと言われる。私もその通りだと思う。そのとき私はこう答えている。「ぜひ鏡を見てほしい。その鏡の中にバカな政治家を選んだ人の顔が映っているはずだから」と敢えてこう述べている。つまり、国民主権は、バカな政治家を選ぶかバカでない政治家を選ぶか、どの政党を選ぶかというリスクがある。私が厚生大臣になる前に、妻が「大臣になったらポストばかり好きな政治家と見られるよ。やめなさいよ」と言った。しかし、物事がやれたら「あ、結構できるのね。やりなさいよ」と言った。民主党はまだ何もできないじゃないかと言われるが、野党というのは、なかなかやってみせることができない。そこには選ぶリスクもある。国民のみなさんには、ぜひ民主党がやれるかどうかわからなくても、やらせてみせようというくらいのリスクを賭けてほしい。鈴木宗男を選んだ間違いを、リスクを賭けることによって変えていくという気持ちを持ってもらいたい。

野田 これまでの議論で分かってもらえたと思うが、私は徹底して自由主義経済を真のものにしていくという路線を取っているし、教育もある意味自由化論に立つし、個人情報保護法が成立しない中で住基ネットが稼動していることも自由主義社会への脅威だと思い、真に日本を自由な国にするために霞ヶ関と対決していきたい。逆に、自由主義の国を作りたいから、自分の自由を守ってもらうだけではなく他人の自由も認めることが大切であるし、社会のルールを尊重することが大切だ。だから、数字で表れない本来私たちが持っていたやさしさ、思いやり、礼節、利他の精神などの心の問題が、逆に大切な社会になってくるだろう。そのことを教育基本法の理念の中に位置づけていきたい。

横路 今度行われる民主党の代表選は、民主党の代表を選ぶということだけではなくて、ブッシュ政権がイラクに対して攻撃をしようとしているような国際的な環境、日本としては経済の出口がないというような状況の中での代表選挙だ。したがって今度の代表選挙は、自民党に替わって民主党がどういう政権を担っていくべきであるのかを中心に議論をしていきたい。(会場には)マスコミの人がたくさんいるが、マスコミはどうも自民党と民主党の違いよりも、民主党の中の違いはどうなのかということにもっぱら関心があって、そのようなことへの質問ばかりを受けていて残念に思っている。いままさに日本の社会、世界も21世紀に入って大きな岐路に立たされている。その岐路の中での大きな選択の一つして受け止めてもらって、この中にはサポーターもたくさんいると思うが、これからの政策論争をさらに聞いてもらい、代表選挙に関心を持って投票してもらいたい。

鳩山 いまの話の延長線上になるかもしれないが、いままで民主党の代表選挙はやや内向きの議論に過ぎた。そして民主党の代表選挙に対して、評判があまり芳しくなかった。しかし今日このような政策での議論を通じて、初めてそれぞれの候補予定者がどのような考えを持っているのかが、おぼろげながら分かってきた。その意味で今日このような会を設定をしてくれた天野礼子さんをはじめ、みなさんに感謝を述べたい。このような多忙な中に集まってくれたすべての人に篤くお礼を述べたい。一言付け加えれば、憲法の議論をかなり力を入れて話したものだから、あいつは古い改憲論者ではないかという風に思っているかもしれないが、実はそうではない。小泉さんはどうも国権主義的な方向に動いていくのではないかという懸念がある。先ほどから指摘があった個人情報保護法案、住基ネット、有事法制などの議論に見られるような、どうも国の権力を傘に着たような、そんな方向が垣間見られて仕方がない。それに対して、個人の権利をしっかり謳うということが重要であって、それを一つ一つの法律、憲法の中に謳いこむことが極めて大切な、民主党的な新たな改憲論だと理解してもらいたい。

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